大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

鳥取地方裁判所 昭和42年(ワ)151号 判決

原告 山本幹治 外二八名

被告 有限会社栄楽会館 外六名

主文

1  被告有限会社栄楽会館を除くその余の被告等六名が昭和四二年五月二六日なした被告有限会社栄楽会館の設立を取り消す。

2  原告等のその余の第一次請求および予備的請求はいずれもこれを棄却する。

3  訴訟費用中、原告等と被告修一、被告みよ子との間に生じたものは右被告両名の負担とし、原告等と被告会社との間に生じたものはこれを二分し、各その一を原告等と被告会社とに負担させ、原告等と被告弘遠、被告明吉、被告澄子、被告玉子との間に生じたものは原告等の負担とする。

事実

1  原告等は、第一次請求として、「被告会社を除く被告等六名が同日なした被告会社の設立を取り消す。被告会社は別紙第一目録〈省略〉記載の不動産につき鳥取地方法務局昭和四二年六月七日受付第七、八六七号をもつて、別紙第二目録〈省略〉記載の不動産につき同法務局同日受付第七、八六八号(訴状に第七、八六七号とあるのは誤記と認める)をもつて、それぞれなされた各所有権移転登記の各抹消登記手続をせよ。被告等は原告等に対し右各不動産を引き渡せ。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として別紙A(訴状関係部分写)記載のとおり述べ、なお、本訴において、被告会社の設立が取り消された場合にはその設立のための出資行為も取り消されたことになるので、原告等は右のとおり各所有権移転登記の各抹消登記手続を求めるものであり、また、被告会社の設立が取り消された場合には被告等全員が本件不動産を占有することになるので、原告等は右のとおり被告等全員に対し、右不動産の引渡を求めるものである、と釈明した。

2  原告等は、予備的請求の請求の趣旨として別紙B(請求の趣旨原因追加申立書兼準備書面関係部分写)記載の第一項のとおり述べ、その請求の原因として、同記載の第二ないし第一〇項のとおり述べた。

3  被告修一、被告みよ子が陳述したものとみなされた答弁書には「原告等の第一次請求はすべてこれを認諾する、同請求の請求原因事実もすべてこれを認める。」旨の記載があり、同被告等は予備的請求の請求原因事実については明らかに争わない。

4  被告会社、被告弘遠、被告明吉、被告澄子、被告玉子(以下単に被告会社等被告五名という)は、第一次請求につき、「同請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求め、答弁として、原告等主張の請求原因事実第一、第二項は認める、同第三項のうち「被告修一は被告みよ子には無断で」との点および「被告みよ子不知の間に」との点を否認し、その余は認める、同第四項は否認する、と述べ、予備的請求につき、「同請求を棄却する。」との判決を求め、答弁として、同請求原因については第一次請求の請求原因に対する前記答弁において認めたものを除くその余の部分はすべて否認する、原告等主張の法律上の見解も争う、と述べた。

5  (証拠省略)

理由

(1)  被告修一、被告みよ子は原告等の第一次請求どおりの判決を求め、また予備的請求の請求原因について明らかに争わないが、本件におけるような債権者による会社設立取消の訴(有限会社法第七五条第一項、商法第一四一条)においては、その立法および規定の趣旨、体裁からみて、詐害行為者とされている被告たる各々の社員とその設立取消を求められている被告たる会社とは固有の必要的共同訴訟の当事者の関係にたつ(すなわち、被告たる各社員相互の間の関係は別として、被告たる各社員と被告たる会社との間の関係においては固有必要的共同訴訟の当事者の関係にある)と解するのが相当であるから、民訴第六二条により、本訴において、被告会社が第一次請求を争つている以上被告修一、被告みよ子において同請求の認諾をなしえないし、その他原告等主張事実につき同被告等のなす裁判上の自白も被告会社がこれを争う限度で自白の効力をもちえない、と解すべきである。

(2)  そこで第一次請求について考えるに、原告等主張の請求原因事実第一、第二項は当事者間に争がなく、成立に争のない甲第一ないし第五号証、被告修一本人、被告みよ子本人の各供述によると、被告修一は被告みよ子に事前に相談することなく、被告みよ子の(無権)代理人として、昭和四二年五月二五日原告等主張のとおりの経緯により、被告弘遠、被告明吉、被告澄子、被告玉子等とともに被告みよ子不知の間に原告等主張のとおりの定款を作成して本件不動産(別紙第一および第二目録記載の物件)をその主張のように被告会社に現物出資することにし、その主張の認証をうけたこと、昭和四二年五月二六日その主張のとおり設立登記がなされて被告会社が設立されたこと、本件不動産につきその主張のとおり各所有権移転登記がなされたこと(以上のうち被告みよ子に関する点を除いた部分はすべて当事者間に争がない)、同年六月頃、被告みよ子が、被告修一のなした右各行為を別段の意思表示なく追認したことを認めることができ、これを左右するに足りる証拠はない。

(3)  進んで、被告修一本人、被告みよ子本人の各供述とこれによつてその成立を認めうる甲第七ないし第五三号証、被告みよ子本人の供述によつてその成立を認めうる甲第五四号証、前出甲第一ないし第五号証によると、原告等が別紙第三目録〈省略〉記載のとおり(ただし原告谷口敬男の五〇万円の債権の期限につき同目録に「42.6.20」とあるのを「42.6.25」と訂正する)被告修一、被告みよ子に対し債権(その総額一、九三五万円)を有していること、これらの債権は抵当権等物的担保権によつて担保されていないものであること、被告修一、被告みよ子には本件不動産のほかにみるべき資産がないこと、本件不動産の現物出資当時の時価合計は、これらに抵当権等による負担がない場合少くとも三、〇〇〇万円をこえるものであつたこと、右の当時、本件物件には、訴外株式会社松江相互銀行が被告修一に対して有した約七一〇万円の債権を被担保債権とする根抵当権、訴外本郷信義が被告修一、被告みよ子に対して有した約五〇万円の債権を被担保債権とする根抵当権による負担のほか抵当権等による負担がなかつたこと、被告修一、被告みよ子は被告会社設立の暁にはその役員となることになつてはいたが被告会社から当初うけるその報酬は一ケ月各三万円と予定されたにすぎなかつたこと、をそれぞれ認めることができ、これに反する証拠はなく、これらの認定事実にさらに被告修一本人の供述、本件弁論の全趣旨を併せ考えると、被告修一、被告みよ子(同みよ子についてはその代理人同修一について害意の有無を判定すべきである)は、原告等債権者を害することを知りながら、本件不動産を現物出資して被告会社を設立したものと認めるに充分であり、この認定を左右するに足りる証拠はない。

(4)  なるほど、前出甲第一ないし第五号証、被告修一本人の供述とこれによつてその成立を認めうる乙第一ないし第三号証、被告明吉本人の供述とこれによつてその成立を認めうる乙第四、第五号証、被告みよ子本人の供述によると、被告会社が設立された後の昭和四二年六月初旬頃、被告修一、被告みよ子と被告弘遠、被告明吉、被告会社との間で、次の債務、すなわち、(イ)被告修一が当時訴外株式会社松江相互銀行に負つていた約七一〇万円の債務(これについては本件不動産(共同担保)に元本極度額一、〇〇〇万円の根抵当権が設定されていた)、(ロ)被告修一、被告みよ子が当時訴外本郷信義に負つていた約五〇万円の債務(これについては本件不動産(共同担保)に元本極度額五〇万円の根抵当権が設定されていた)、(ハ)右被告両名が当時訴外国民金融公庫に負つていた約八八万円の債務、(ニ)右被告両名が当時訴外木下信市に負つていた約五〇〇万円の債務、(ホ)右被告両名が当時税務署(国)に負つていた約二〇〇万円の債務、以上の各債務につき、被告会社が同年七月頃本件不動産を担保に(すなわち、被告会社が右不動産につき元本極度額二、〇〇〇万円の根抵当権を設定して)右松江相互銀行から二、〇〇〇万円を借り入れ、また、被告弘遠、被告明吉、被告澄子、被告玉子の被告会社に対する出資金合計五〇〇万円、以上合計二、五〇〇万円を用いて、右(イ)、(ハ)、(ニ)の債務を、被告修一、被告みよ子のため被告会社が代位弁済し(すなわち、これにより被告会社が債権の肩代りをして同被告両名に対する債権者となる)、また被告会社が被告修一、被告みよ子に五〇〇万円を貸しつけ、これにより右被告両名において(ロ)、(ホ)の債務およびその他の債務(ただし、本件原告等に対する債務を含まない)を弁済する、旨の話合のできたことは分るけれども、この話合のできたのは前記のように被告会社設立後のことであるし、その話合は、その内容からみて、被告修一、被告みよ子にとつて、従つて、その債権者たる原告等にとつて、格別有利なものとは、必ずしもみられないし、特にこの話合は原告等の本件債権の弁済に関するものでないのであるから、この話合のできたことは前記(3) の認定をなす妨げとはならないし、他にこれを左右すべき資料はない。

(5)  しかし、被告会社の設立にあたり、被告弘遠、被告明吉、被告澄子、被告玉子が原告等を害することを知つて右の設立をしたとの原告等の主張については、これに添うかのような被告修一本人の供述部分はにわかに信用できないし、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。

(6)  右の次第で、第一次請求中被告会社の設立の取消を求める請求については、そのうち被告弘遠、被告明吉、被告澄子、被告玉子の詐害行為を理由として被告会社の設立の取消を求める点は理由がないけれども、被告修一、被告みよ子の詐害行為を理由として被告会社の設立の取消を求める点は理由があるというべきところ、

一般に、会社設立の無効又は取消の関係において、一つの会社の設立なるものは綜合して一個不可分のものとみるのほかはなく、従つて、この点の立法論による当否はともかく、一部の社員のなした取り消されるべき詐害行為(これが会社の設立にとつて極めて軽微なものであるときの処置については一つの問題ではあるが)を含む会社の設立は、右詐害行為により全部取消を免れない、と解すべきであるから、

本件において、被告修一、被告みよ子の詐害行為(本件においてこれが被告会社の設立にとつて軽微なものであるといえないことは本件弁論の全趣旨によつて明らかである)を含む本件の被告会社の設立は右詐害行為により、一個のものとして全部取消を免れない、すなわち、被告会社を除く被告等六名が昭和四二年五月二六日なした被告会社の設立は右詐害行為により結局全体としてこれの全部の取消を免れない、とみるべきであり、従つて、右請求は結局理由あるに帰する。

(7)  原告等は、第一次請求として、さらに被告会社の設立取消を前提に被告会社に対し本件不動産につき現物出資を原因とする各所有権移転登記の各抹消登記手続を求め、また、被告等全員に対し右不動産の引渡を求めるが、商法第一四一条の適用または準用のある会社についての詐害行為の取消には民法第四二四条を適用する余地なく(昭和三九年一月二三日最高裁判所判決参照)、従つて、原告等は被告会社の設立の取消の外に出資の約束又は出資行為を取り消し、その出資の目的物の登記抹消登記手続とかこれの返還とかを求めることはこれをなしえないというのほかなく、それ故、第一次請求のうち、右各登記抹消登記手続、不動産の引渡の請求は理由がない。

(8)  次に予備的請求について考えるに、この請求はその趣旨とするところ必ずしも明確でないが、その請求の原因、第一次請求との関係、その他本件弁論の全趣旨等からみて、被告修一、被告みよ子がなした本件出資契約ないし出資行為の取消を求めているものと解するほかはないところ、前(7) に説示した理由と同様の理由により、原告等は本件出資契約ないし出資行為の取消を求めえないというべきであるから、予備的請求も理由がない。

(9)  訴訟費用につき、民訴第八九条、第九二条、第九三条を適用する。

(裁判官 海老塚和衛)

別紙A (訴状関係部分写)

請求の原因

一、被告木下修一は被告木下みよ子の子である。

二、被告木下修一は別紙第一目録記載の不動産を被告木下みよ子は別紙第二目録記載の不動産を各所有していた。

そして被告木下修一、同木下みよ子は、共同で前記表示の不動産を使用して栄楽館なる名称にて、映画興行を営み且つ、該不動産の一部に居住していた。

三、ところが被告木下修一は被告木下みよ子には無断で昭和四二年五月二五日、被告徳山弘遠、同徳山明吉、同徳山澄子、同三浦玉子と被告有限会社栄楽会館設立を協議し、出資一口の金額を一〇、〇〇〇円、資本の総額一〇、〇〇〇、〇〇〇円、社員及び出資口数を

三〇〇口 被告 徳山弘遠

三〇〇口 被告 木下修一

一〇〇口 被告 徳山明吉

二〇〇口 被告 木下みよ子

四〇口 被告 徳山澄子

六〇口 被告 三浦玉子

とし、別紙第一目録記載の不動産を三、〇〇〇、〇〇〇円別紙第二目録記載の不動産を二、〇〇〇、〇〇〇円と評価し、それぞれを被告木下修一分及び被告木下みよ子分に現物出資する旨の定款を被告木下みよ子不知の間に作成し、同日鳥取地方法務局所属公証人藤間忠顕の認証を受けた上被告徳山弘遠に於て同月二六日被告有限会社栄楽会館の設立登記を了した前記表示の不動産については、昭和四二年六月七日鳥取地方法務局受付第七、八六七号(ただし、別紙第二目録記載の不動産の受付番号は第七、八六八号)で現物出資を登記原因として被告有限会社栄楽会館へ所有権移転登記が為された。

四、原告等は別紙第三目録記載のとおり被告木下修一、同木下みよ子に対し多額の債権を有し、又右被告等は他にも多額の債務を負つている。被告木下修一同木下みよ子には前記表示の不動産の外にはこれといつた資産なく被告有限会社栄楽会館から多少の役員報酬を得たところでこのような多額の債務を返済すること困難に陥るのは必定であり、殊に原告等債権者の大部分は被告木下母子の親せきや知人で右母子が映画興行を続けるというのでこのように多額の融資を為し、期限が過ぎても厳しい請求もしないで過して来たところ債権者等不知の間に前記会社設立が為され、前記表示の不動産所有権は移転したのみならず、前記表示の不動産は国鉄鳥取駅に最も近い位置にあり合計四、〇〇〇万円乃至五、〇〇〇万円にて売買可能であるのにこれを合計五〇〇万円で現物出資したのは不当である。

被告有限会社栄楽会館の社員である被告木下修一外その余の被告は原告等債権者を害することを知つて会社を設立したというべきであり、原告等は有限会社法第七五条商法第一四一条により、設立取消土地建物所有権移転登記抹消登記土地建物引渡請求等の原状回復請求の訴を原告等の自らの権限により或は被告木下みよ子同木下修一に代位して請求するものである。 以上

別紙B(請求の趣旨原因追加申立書兼準備書面関係部分写)

一、請求の趣旨の予備的追加

被告等間に於ける被告木下修一が別紙第一目録記載の不動産を被告木下みよ子が別紙第二目録記載の不動産をそれぞれ被告有限会社栄楽会館に現物出資する旨の出資契約につき被告有限会社栄楽会館設立行為はこれを取消す。(但し、別紙目録は訴状記載のものと同様につきこれを援用する。)

との判決を求める。

二、原告等の主張の予備的追加請求の趣旨に対する原因は次に補足するものの外訴状記載の通りであるからこれを援用する。

三、被告指摘の最高裁昭和三九年一月二三日の判決は、商法一四一条の規定及びその準用規定が、民法四二四条の特則規定で、この特則の適用される限度に於て民法四二四条の適用が排除されることを判示したに止る。そして、判例の事案は、現金出資の場合であり本件は現物出資の場合で区別して考えられなければならない。

四、又、大七、一〇、二八、昭七、一二、六、昭一六、五、一六判決も本件の場合に適切ではない。

五、商法一四一条、その準用規定が民法四二四条の特則であるとの意義は、会社設立の如き合同行為も取消の対象になることを立法的に明示し、又この場合民法四二四条但書の適用がないことを定めたところにあるのである。

六、本件に於て、何が債権者を害することか、そのポイントは時価合計四千万円乃至五千万円の第一、第二目録記載の不動産を合計金五百万円と評価して現物出資したところにある。

この不動産が、現金五百万円を出資したに過ぎない被告達と木下達と同じ割合の持分の対象になることが債権者を害する理由となるのである。

即ち被告木下等の債権者の一般担保である本件不動産が会社に出資されたとしてもそれが正当に評価されたものであれば、被告木下等は不動産の価格に相当する持分を取得しその持分により等額の割合により会社を支配しこの持分が債権者の一般担保となり得るので必ずしも債権者を害することになり得ないのに本件に於ては低価出資により債権者を害する。

現物出資契約が詐害行為となる所以である。

七、本件設立に於ては、被告木下両名が低価現物出資契約を為した設立行為が取消原因であり取消原因は第一次的には被告木下両名にある。

しかし、他の被告も設立行為が合同行為であり低価出資の事実を認識していたので第二次的ではあるが取消原因に関係がある。

八、商法一四二条は商法一三九条を準用する取消判決があつた場合本件会社を継続できるのは被告木下両名を除いた他の被告であり、この場合、木下両名ははじめから入社しなかつたことになるが、退社したものと看做されることになる。

この退社の際、出資割合額の表面により金五、〇〇〇、〇〇〇円が清算の対象となるのか、不動産そのものが対象になるのか。前者とすれば債権者は取消の実効を受けることができないのである。

九、現物出資による設立は、有限会社法上、現金出資と区別して取扱われているが、これを経済的社会的事実として見れば、会社設立の人的行為と不動産等現物を会社が買取る行為との複合行為として見られる面があるのである。

一〇、商法一四一条とその準用規定が不当な現物出資の取消にまで及ぶとすればこれによりそうでなければ民法四二四条により取消を求める次第である。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例